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あなたも「懲役刑」を受けてしまうかも?侮辱罪の厳罰化について

あなたも「懲役刑」を受けてしまうかも?侮辱罪の厳罰化について

 

皆さんは、友だちに悪口を言ってしまったことはありませんか?ついうっかりSNSに人をけなすような言葉を書き込んでしまったことはありませんか?

 

もしかすると、将来そうした侮辱行為によって、「懲役刑」を受けてしまうことになるかもしれないんです。

 

これが、世間を賑わせる侮辱罪の厳罰化に関する議論です。みなさんは、この問題の中に存在する論点がなんだか分かりますか?

 

今回は、現役東大法学部生の僕が、侮辱罪の厳罰化について整理しながら、その是非について考えていこうと思います!

 

 

 

 

1.そもそも何をしたら侮辱罪になるか?

 

いきなり「侮辱罪」と聞いても、正直イメージできない人のほうが多いのではないでしょうか。

 

侮辱罪を規定した刑法231条には、

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」

(傍線筆者)

 

と書いてあります。

 

この条文を理解するために、侮辱罪と似ていて、侮辱罪以上に有名なものを見てみましょう。それが「名誉毀損罪」です。

 

名誉毀損罪を規定した刑法230条1項には、

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」

(傍線筆者)

 

と書いてあります。傍線部に注目してもらうと、「事実を摘示」するかどうかがこの2つの違いだと分かります。

 

つまり、名誉毀損罪は「具体的な事実を示して相手の名誉を傷つけること」、侮辱罪は「他人を抽象的に軽蔑・侮辱すること」を対象としているということです。

 

「具体的事実を示す」の例としては、「〇〇さんは先月☓☓さんのバッグから財布を盗んだ」など、人・物・時間などが判別できるようなものです。

「抽象的に軽蔑・侮辱する」の例としては、「〇〇は頭がおかしい役立たずだ」など、評価の基準などが曖昧なものです。

 

ただし、両者の区別はそう簡単につけられません。あくまでこれらは参考程度です。

 

また、両罪を問うために必要な要素として「公然性」があると言われています。これは、「摘示された事実を不特定または多数人が認識しうる状態」(引用:後掲西田・p123)のことです。

 

ここでポイントは「認識しうる」というところです。つまり、実際に不特定多数が認識しなくても、その可能性があれば「公然性あり」と言えることになります。

 

特定の誰かだけに悪口を言うことは、名誉毀損罪や侮辱罪に当たらないとされることが多いでしょう。

しかし、多くの人に言いふらして回ったり、誰でも閲覧可能なインターネット上に書き込んだりと、「公然と」広まる可能性があるような状況で行為すれば、これらの罪が成立します。

 

 

 

 

2.侮辱罪の厳罰化によって何が変わるか?

 

侮辱罪とはそもそも何なのかを確認したところで、続いて厳罰化の話に移ります。

 

現在、法務省の「法制審議会-刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会」という会議において、侮辱罪を厳罰化しようということが議論されています。これは、最近SNSでの誹謗中傷やそれによる被害が拡大していることを受けて設置されたものです。

 

まずは変更前、現行刑法の規定を確認します。先ほど見た現行刑法の条文によれば、侮辱罪を犯した人に科される刑罰は拘留又は科料です。

 

拘留:1日以上30日未満の一定期間、刑事施設に拘置すること

科料:いわゆる「罰金」のうち、1000円以上1万円未満のもの

 

被害者の方が自ら命を絶つことを選んでしまうなど、最近問題となったケースを考えれば、これでは被害者が受けた被害の重さに釣り合っていないのではないかと考えられるのも自然でしょう。

 

そこで10月6日に開催された会議では、侮辱罪の法定刑を一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(引用:要 綱 ( 骨 子 )にすることが決まりました。

 

懲役:1ヶ月以上20年以下又は無期の一定期間、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせること

禁錮:1ヶ月以上20年以下又は無期の一定期間、刑事施設に拘置すること(作業無し)

罰金:いわゆる「罰金」のうち、1万円以上のもの

 

つまり、刑事施設に身柄を拘束しておく日数の上限を1年に、罰金の上限を30万円にそれぞれ高めることで、侮辱罪が発生してしまうことを防ごうとしているということです。

 

一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料という重さに近い罪としては、他に説教等妨害罪(188条:礼拝や葬式などを妨害することに対する罪)、遺失物等横領罪(254条:誰かのなくしたものを勝手に取ることに対する罪)などがあります。

 

また、先ほどから比較している名誉毀損罪は「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」になっています。今回の侮辱罪の法定刑は、この名誉毀損罪の規定を参考にしたということが、審議会の議事録からも明らかとなっています。

(参考:法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)第1回部会議事録 p5)

 

私自身は、今回の厳罰化に賛成です。海外を見てみても、1~2年の拘束や高額の罰金を規定している国は一定数存在しています。

(参考:諸外国における名誉毀損罪・侮辱罪に 相当する罰則の概要 p2

 

さらに、最近はSNS等を利用して、非常に簡単に他人を誹謗中傷できるようになってしまっているのが現状です。

 

とても悲しいことではありますが、こうした現状を変えるには、ただ「侮辱や誹謗中傷はよくないことだ、やめよう」と声を上げるだけでは不十分なのではないか、と考えています。

 

 

3.本当に効果はあるのか?

では、科される刑罰を重くするとどんな効果があるのでしょうか?

 

そもそも現行刑法の根本にある発想は、「相対的応報刑論」と呼ばれるものです。

 

ここでは、刑罰の本質が、現に罪を犯してしまった人に対する報いとしての正当な罰であるとしつつ、刑罰の目的には将来の犯罪を予防することも含まれると考えられています。

 

今回の問題意識の1つは、「将来侮辱罪が発生するのを防ぐためには、刑罰をもっと重くし、多くの人に『この刑罰は受けたくない』と思われるようにすべきではないか?」というものでしょう。

 

そしてもう1つが、「侮辱罪という、被害者に大きなダメージを与えるような罪を犯してしまった人に対して現在科されている罰は軽すぎないか?」というものです。

 

こうして考えると、今回の侮辱罪厳罰化によっても、「犯罪行為者への適切な処罰」と「将来犯罪の予防」という2つの目的が実現することになると言えます。

 

ただし、そのために「一年以下……若しくは三十万円以下の罰金……」という重さの罰則が本当に理想的なのかということについては、まだまだ議論の余地があります。

 

 

 

4.刑罰を重くする上で注意することはあるか?

 

侮辱罪が処罰の対象にしているのは、広く言えば、人々がするあらゆる表現行為の一部です。

 

つまり、私たちが普段何気なくSNSでつぶやいたり、こうして記事を公開することを通して自分の考えを表明したりすることが、場合によって処罰対象になりうるということです。

 

日本では、憲法21条によって表現の自由が保障されています。人々が日常行う表現行為を厳しく取り締まることは、この自由を侵害してしまうことになりかねません。

 

懲役刑を受けて刑務所に入ることになれば、私たちの時間や自由が直接拘束されてしまいますよね。罰金刑によっても、取られてしまったお金でできたはずの様々な行為ができなくなってしまうでしょう。これも一種の制限、制約です。

 

さらに、こうした直接的な制約だけでなく、「もしかしたらこの表現は侮辱罪に当たるかもしれないから、発言するのはやめておこう」というように、間接的に人々を萎縮させてしまう可能性もあります。

 

 

表現の自由を侵害しないようにしつつ、しかし人々を不当に傷つける行為を規制するには、高度なバランス感覚が求められます。法学では、個人の人権と社会の利益を比較してバランスを取るこの営みが「比較考量」と言われ、様々な場面で問題となります。

 

そもそもどんな内容の表現が「公然と人を侮辱」していると言えるのでしょうか?

どこで・どういう形式で発言したら「公然と」侮辱したことになるのでしょうか?

どれくらいの重さの刑罰なら、行為の悪質さと釣り合いが取れていると言えるでしょうか?

 

線引きは非常に難しいですよね。この辺りをどう判断するかということを含め、今後も法制審議会や国会での議論が進んでいくはずです。

 

10月21日には審議会の臨時総会が開催され、法務大臣に侮辱罪の法定刑改正が答申されました。これにより、今後国会での議論が始まることになるはずです。

 

 

いかがでしたか?侮辱罪とはそもそも何なのか、侮辱罪が厳罰化されるとどうなるのか、厳罰化する上でどんなことに注意しなければならないか、分かっていただけたでしょうか。

 

私たちの自由で快適な生活に直結する法律。みなさんも、今後の動きに注目してみて下さい。

 

 

参考

西田典之著・橋爪隆補訂(2018)、『刑法各論(第7班)』、弘文堂

法文引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045

 

 

河内誠人のプロフィール画像

河内誠人

カルペディエムLIFE編集長。法学部で勉強中。数年ぶりに紙のカードゲーム(デュエルマスターズ)復帰しました。