
公開 : 2022.04.14
東大生が本音で語る「農学部」の志望理由
この春から私は、農学部応用生命科学課程動物生命システム科学専修に進学しました。
しかし実は私は大学入学時、全く農学部に進学しようとは思っていませんでした。小さい頃から建築家志望で、工学部に進学するつもりだったのです。
今回は、私がどういう経緯で進路を変更することにしたのかをお話しして、皆さんに進路選択に参考にしていただければと思います。
私がなぜ農学部にしたのか紹介するにあたって、まずはどういう経緯で志望が変わったのか、すなわち私の大学生活についてお話しさせてください。
ギャップイヤーで持っていた二つの軸
私は大学入学してからの一年間で休学していました。いわゆるギャップイヤーという制度です。
ギャップイヤーというのは、高校卒業と大学入学の間=ギャップに休学して、自分自身の興味を深めたり、自分自身について見つめ直そうという取り組みのことです。私はこの休学期間の活動を、2つの興味の軸に沿って行っていました。
一つは公園や建築です。冒頭で軽く述べたように、テレビ番組がきっかけで小さい頃から建築に興味がありました。
二つ目は人間や心理です。これに興味を持つようになったきっかけは、休学期間中に入ったとあるサークルでした。そのサークルでは、中高生向けにサマーキャンプを提供するという活動をしていました。
ここで中高生としっかり関われたことで、「目の前にいる人を救ってあげたい、安心させてあげられるようになりたい」という思いがなんとなく芽生えたのです。

フロントヤードが与えてくれた気付き
この休学期間中の一年の活動を振り返ってみると、この二つの軸が重なるものとして、アメリカのフロントヤードの話を思い出しました。
フロントヤードとは、家の敷地から玄関までのスペースのことで、アメリカでは主に駐車スペースや、子どもの遊び場として使われています。このフロントヤードが私の進路選択の直接の決め手となりました。
というのも、私はこのフロントヤードがコミュニティ形成のきっかけになっているのがとても面白いと思ったからです。
アメリカは日本と違い、子どもだけで公園に行く文化がありません。各家庭の子どもたちが自分の家のフロントヤードで遊び始めます。
フロントヤードは隣家と明確に区切られていないので、子ども同士が隣の子どもと遊び始めます。すると、子どもの親同士が繋がり、ゆるいコミュニティとして機能するようになるのです。
フロントヤードに興味を持った理由は、その場所自体ではなく、そこで起こる人と人とのつながりでした。つまりは、私の興味の中心は人間や心理であって、建物というのは一種のツールでしかないということに気が付いたのです。
人間や心理への興味のきっかけとなる「目の前にいる人を救ってあげたい、安心させてあげられるようになりたい」という思いを原動力に、他の団体でも教育系の活動をしていて高校生と接する中で、その思いは強くなっていきました。

必死で探して見つけた農学部という道
ではなぜ農学部かと気になった方もいるかもしれません。農学部と人間は一見無関係に見えるからです。
実はもともと心理学の分野が第一志望でした。
しかし、心理学に進むには文転しなければなりません。枠が狭い上、人気の学部で倍率も高かったため、成績が足りずに心理学への道を諦めざるを得ませんでした。だから自分のやりたいことができる場所を必死に探しました。
それで見つかったのが、農学部の応用生命科学課程、動物について研究する学科でした。
動物は、「フェロモン」と呼ばれる化学物質を用いてコミュニケーションを取ることがあります。
例えば蜂。蜂は餌を見つけた時に、餌があったということを伝える化学物質を分泌します。そしてそれを受信した他の蜂は、餌が見つかったんだということを認識します。つまり、フェロモンを言葉のように用いているのです。
このようなフェロモンでのコミュニケーションは、本物の言葉を用いる人間にはみられないと言われています。実際、化学物質のやりとりができる方はいないと思います。とはいえ、コミュニケーションは全く問題ありませんよね。
しかし、感染症対策のために他人との直接のやりとりを控えていた中で、私が強く感じたのは「直接触れる」ことの重要性です。
会話だけのやりとりにどこか寂しさを感じることはありませんか?
誰かと手を繋ぐ、頭を撫でられる、抱きしめられるといった行為に、安心感を感じたことはありませんか?
実は、この「安心」は、「オキシトシン」という化学物質の影響だと言われています。
オキシトシンとは、相手への愛情や信頼感を生む効果がある化学物質で、皮膚接触によってつくられる物質です。つまり、触れ合うことによって相手への信頼感、愛情が生まれ、安心感へと繋がっていくのです。
しかし、これがなぜ皮膚接触で作られるのか、なぜオキシトシンによって安心感を覚えるのかは今のところわかっていません。
今わかっているのは、その効果と、どうやら人との関わりの中で生まれてくるらしいということです。
だからこそ私は、このオキシトシンの発生について考えていくことで、「安心」を感じている状態とは、どういう状態なのか、どうすれば安心を感じられるのかを化学的に考えていきたいと思っています。こういった理由で、農学部への進学を決めました。

可能性は絞らない
僕は最終的には第一志望には行けませんでした。しかし今は、今の学科でよかったと思っています。
皆さんには、最初の僕のように頭から進路を絞るのではなく、自分のやりたいことのために取れる選択肢はなんなのか、いろんな可能性を考えて進路を決めてほしいと思います。

姜利英(かんりよん)
教育事業部。現在東大農学部3年生。プロントのつぶつぶいちごミルクが好きすぎてプロントでバイトしようか悩んでいる。DTM勉強中。